Proc. of Asia-Pacific Conference on Shell and Spatial Structures
China Civil Engineering Sciety
May 21-25, 1996
Beijing, China
One Volume, 743 pages
本ホームページは,シェルと空間構造に関する海外の最近の論文集から,
適宜選ばれた論文の抄録を紹介するものです。
論文は抄録者の意志により随意に選ばれたものであり,
必ずしも各論文集を代表する内容のものとは限りません。
SHAPE FORMATION AND SELF-ERECTION OF HYPER TRUSSES |
H.P.曲面トラスの形状形成と自動的建設方法について |
Hewen Li and Lewis C.Schmidt | pp. 344-351 |
The Limit of Spatial Structures |
空間構造物の限界 |
Matthys Levy | pp.3-9 |
原題:SHAPE FORMATION AND SELF-ERECTION OF HYPER TRUSSES
訳題:H.P.曲面トラスの形状形成と自動的建設方法について
著者:Hewen Li and Lewis C.Schmidt
著者所属:Dept. of Civil and Mining Eng., Univ. of Wollongong, Australia
雑誌名:Proceedings of Asia-Pacific Conference on Shell and Spatial Structures, Beijing, China, ed. Tein T.Lan, China Civil Engineering Sciety, May 21-25, 1996. pp. 344-351
図6,表0
用語:
原語:Hyper Trusses, Single Chorded Space Truss (SCST), Active Diagonal
日本語:H.P.トラス, 単弦立体トラス, 可変対角部材
内容要旨: はじめに 近年,鋼構造にポストテンションを導入し,構造挙動の改善やアーチ型の鋼構造を建設する手段として利用されている。 本論文では,正方形パターンの対角線上の下弦材を縮めるだけでHP曲面トラスが形成出来るポストテンション工法の実験と非線形解析の結果について報告する。 平面配置状態 単弦立体トラス(SCST)は,単層の弦材と面外方向にある腹材とからり,可変対角部材に通したワイヤーを油圧ジャッキで緊張することにより,ポストテンションを導入する。これにより,平面に置かれたトラスがHP曲面を形成する。 有限要素解析と形状形成過程 形状形成過程においては初期形状と最終形状が大きく異なる為非線形解析を行った。可動対角部材の長さ変化は温度変化による長さ変化として近似した。ここでは14.7kNを可動対角部材に導入する事とした。 形状形成と建設過程 実験では,6kNで可変対角部材の隙間が埋まり,14.5kNで固く締まったHP曲面が形成された。実験から得られた曲面形状は解析結果より偏平である。これは主に可変対角部材や接合部のモデル化の違いによるものと思われる。 最大応力度は解析で-214Mpaだったものが実験では-183Mpaとなっている。実験の載荷初期段階では,変形の大きさに比べ荷重は非常に小さい。この時荷重は主に上弦材の曲げ変形と釣り合っている。10kN近辺で可変対角部材の隙間が閉じ,その後はポストテンション荷重は可変対角部材の軸力と釣り合っている。 まとめ HP曲面トラスが可変対角部材1本にポストテンションを導入する事で形成できる事が判った。従来の足場やクレーンを用いた工法より合理的である。
(平成8年7月14日 川口健一 抄録)
原題:The Limit of Spatial Structures
訳題:空間構造物の限界
著者:Matthys Levy
著者所属:
出典:Proceedings of Asia-Pacific Conference on Shell and Spatial Structures, 1996 pp.3-9
概要:
空間構造物に採用される大屋根の限界スパン長について述べた論文である。構造物を建築材料・構造システム別に分類し、構造技術史の観点より空間構造物の限界スパン長を論じている。以下に論文の内容を要約する。
鉄器時代に登場し現代でもイギリスや日本の一部で採用されている茅葺き屋根や、動物の皮革やキャンバスを材料とし狩猟民族により採用されてきたテントの限界はせいぜい10mである。
石造ドームは、西暦120年に建設されたローマのパンテオンや、6世紀にイスタンブールの聖ソフィア寺院に架けられた屋根がある。スパン長は前者が44m、後者が33mである。また、ヴォールト・ドームは中世のヨーロッパの都市の大聖堂に用いられた。1284年、フランスのボーヴェ大聖堂の高さ47mのヴォールト・ドームは建設中に崩壊した。高さ47mはこの種の構造物の限界である。
木造構造物のスパン長は、技術史の初期には材木の長さと強度によって制限されていた。また、トラスシステムが16世紀にクリストファー・レンやパラディオによって用いられ、18世紀後半にこのシステムの静的原理が発展した。これを背景として、木造トラスにより更に長いスパンを架構することが可能となった。しかし、その時点ではせいぜい30mが限界であった。
スチール・ドームの例としてヒューストンのアストロドームやニューオリンズのスーパードームがある。
前者のスパン長は200m、後者は207mである。1962年、構造設計家であるD.R.Kiewittは鉄製のパラレルラメラドームの限界は420mであると述べている。ただしこの主張はまだ証明されていない。
B.Fullerが考案したジオデシック・ドームは、スパン長143mのもの(1975年、ベネズエラ)が最長である。1959年、Fullerは3200mのジオデシック・ドームでニューヨークのマンハッタンを覆う計画を発表している。しかし、これは技術的な観点から不可能と思われる。
スチールトラスによる屋根が100m級のものが実現している。トラス橋からの類推により400mの屋根架構が可能である。
スペースフレームの事例として、ミース・ファンデル・ローエが提案したChicago Coliseum(1953年、スパン長214m)、Konrad Wachsmannのキャンティレバー・スペースフレーム(スパン長116×245m)がある
RC・ドームでスパン長が最長のものは、206mのスパンを有するパリCNITホール(1958年)である。RC・ドームは荷重のなかで自重が大部分を占めるという短所がある。このため、RC・ドームの限界は220mであると思われる。
空気膜構造の最長のものは、180×231mのポンティアック・シルバー・スタジアムである。空気膜構造について、1500mの架構が可能であるとの検討結果が得られている。
ケーブルネットは、F. Ottoによるモントリオール万博の西ドイツ館(1967年)や、240mのスパンを有するジョージア・ドームが著名である。このシステムによる限界は、400m程度が限界である。
吊構造には1993年、カンサスシティーに建設された216mのHNTBがある。この構造システムによる吊橋は1500mが最長であろう。
現在、建築物で必要とされる最大スパン長はスポーツ施設を対象とする400m程度のものであり、これ以上のスパン長をもつ構造物は必要とされていない。しかし、人類が経済性の議論とは別により高いビルを目指すのと同様に、より大きなスパンの構造物を検討していく。
(1997年5月7日 清水建設(株)和泉研究室 瀧諭)