シェルと空間構造文献抄録

IASS'97Proceedings


DESIGN, CONSTRUCTION, PERFORMANCE & ECONOMICS
University of Stuttgart
Sept.10-14,1997, Orchard Hotel, Singapore
Two Volumes


本ホームページは,シェルと空間構造に関する海外の最近の論文集から,
適宜選ばれた論文の抄録を紹介するものです。
論文は抄録者の意志により随意に選ばれたものであり,
必ずしも各論文集を代表する内容のものとは限りません。


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Shaping Lightweight Surface Structures 軽量曲面構造の形態設計 H.Berger Vol.1
Glass as Structure 構造材としてのガラス E.Ramm & A.Burmeister Vol.1, pp.81-91


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原題:Glass as Structure
訳題:構造材としてのガラス

著者:E.Ramm and A.Burmeister
著者所属:University of Stuttgart, Delta-X Consultants, Germany
雑誌名:IASS International Sumposium '97 on Shell & Spatial Structures, Singapore, pp.81-91. 図15,表0
用語:
原語:Concentrated support or pointwise support, tempered glass, laminated glass
日本語:点支持、強化ガラス、合わせガラス

抄録:要

内容要旨:
1.構造材としてのガラスの発展
ローマ人が1辺1m角程度のガラスで窓を葺いていたように、 ガラスの人工材料としての歴史は長いが、 20世紀初頭にロール技術とフロートプロセスが開発されるまで、薄く平らで大きな ガラス板を得ることは難しかった。
透明性、耐候性、アルミと同じ強度、スチールと同じ剛性は、ガラスの魅力的な特徴だが、 その脆性的挙動ゆえに、ガラスは予測性の悪い材料であり、弱くて信頼のおけない材料と考えられ、 荷重伝達材料としては、ほとんど利用されることはなかった。
しかし、1960年頃からデザイナーたちはガラスを構造材として使うことに挑戦し始め、 ガラスのための設計手法が出現しはじめた。透明性を得るためにガラス以外の材料が 取り除かれていくことにより、ガラスがその代わりの役割を担わなければならず、 4点でガラスを支持する方法が頻繁に登場するようになった。ガラス窓からガラスの箱の建築 までは連続的に変化してきたのである。

2.一般的要求事項
ガラス構造において重要なことは構造挙動の予測である。 ガラスが予測性が完全ではない現在、フェイルセーフ機構が要求される。 そのために、例えば、以下のようなガラスが用いられる。
●内部に張力、両面に圧縮力を発現させた強化ガラス
●PVB(ポリビニルブチラール)等の薄い粘着層を挟んだ合わせガラス
●網入りガラス
また、複層ガラスを用いれば、温度変化などの外環境の変化による影響を抑えられる。

3.ガラス構造の例

3.1 シュトッツガルトカジノの庇
この庇は長さ11m、幅4.5m、厚さは2x8mm+1.52mmPVBの合わせガラスである。 それぞれのガラスは2本のケーブルで点支持によって支えられている。ガラス自体は 圧縮材として働いている。点支持なので孔の周りの局部的な応力状態をシェル要素と 体積要素を用いた有限要素法により、慎重に解析した。支持方式(Rodan)の偏心の影響や ライナー、シーリングの特性も考慮した。

3.2 ロンドンメリルボンゲイトのファサード
ファサードは長さ18m、高さ17mで、2x4mのガラス4列と2x1.6mのガラス2列からなる。 水平方向にケーブル支持された2段S字型スチフナーに支えられている。 ガラス同士は点支持コネクター(Litewall)で接続されており、直接接触していない。 ガラスの壁面全体は圧縮材として働き、且つ、スチフナーの横座屈を止めている

3.3 ルクセンブルグのキルヘブルグのガラスのファサード
17mx23mのガラスの壁面が放物線状の水平ケーブルによって支えられている。 鉛直方向もケーブルで繋がれ、両端は上下の大きなアーチフレームに繋がれている。 各ガラスパネルは2.1x3.6mで点支持(Rodan)されている。風圧力は構造全体で受ける。 ガラスは自重による圧縮力を受け持っている。"テニスラケット"型のケーブル方式を 用いることもできたが、その場合は非常に大きなプレストレス力を必要とする。 本方式では、ほとんどプレストレスを必要としない。解析では温度変化による 鋼構造とガラス構造のカップリングも考慮した。

3.4 イタリア南チロルのジュバル城のガラス屋根
2x8mm+1.56mmPVB合わせガラスが城の廃虚の屋根格として渡されたケーブル支持のスチールフレーム に点支持(Rodan)された。2本のケーブルで支えられた各々のパネルでは ガラスが圧縮材として用いられている。 死荷重と積雪荷重は1.85kN/m2とされた。ガラスが破損したとしても、 荷重支持能力は残ったケーブルによりある程度支えることができる。

4.ガラスのための設計と解析技術
ガラスの挙動を予測するためには限られた実験結果だけでは不十分で、詳細な解析が 必要となる。
ガラス支持システムとしては現状ではガラスに孔をあけざるを得ない。そのため、ガラスに優しい 支持システムが求められている。強制変形に対して発生応力を最小にし、 曲げ無しの静定な支持機構が理想である。しかし、逆に曲げや捩じれのもとになる 偏心を持たない支持機構は施工中の融通性が少ない。したがって、システム全体としての性能 評価が必要である。
多くの場合、力やモーメントは孔を介して伝達されるので、解析においては、 最大主応力に代表される応力集中の様子を把握する必要がある。この場合の解析は 線形だが、完全に3次元応力状態で行われる。
強化ガラスでは引っ張り強度が増すにもかかわらず、設計基準上では、安全係数によって 許容レベルが下げられてしまう。時間と荷重レベルの関数として表されるような 統計的設計手法を実現するための研究が望まれる。また、合わせガラスの効果についても 各国基準がまちまちである点も問題である。

5.今後の課題
●強化ガラスの孔の周りの残留応力分布の調査
●3次元応力状態における破壊基準
●合わせガラスの接着層の効果
●点支持の合わせガラスの破壊後の載荷能力
●統計的設計手法
●自発的破壊(熱割れなど)と品質保証
●孔開けのいらない支持方法の開発

6.まとめ
ガラスの構造材料としてのポテンシャルは高いが、他の靭性的な材料ほど"甘く"はない。 従って、詳細な解析による構造挙動の予測が重要になる。
建築的には、完全に透明な構造も求められている。逆に、色や影をつけて構造材を 見えにくくする方法もある。しかし、支持材がはっきり見えている方が「人間的」 かも知れない。

(平成10年7月7日 川口健一 抄録)

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